3度目の夏、
たばこを吸う振りが強くなってしまうなのか、最近、ペンを指で遊んで、自分を落ち着かせる。突然右手からずっと遊んでいたペンが滑って床に転がっていた。
面倒臭そうで、ため息ながらペンを取ろうとしている僕の手より先、
小さな手が転がっていたペンを取ってくれた。
”一年前、床で散らかった資料、あなたを手伝ってあげれば良かったのに” 。目の前の彼女がそれを言った。
誰?
そんなことあったけ。僕はそういった、他の生徒に資料を配るなど、
優等生みたいな役割なんか一度も頼まれたことが無かった。
人違いだろう、君。
”…ありがとう”、自分の頭の中の疑いを言わずに、ペンを彼女の手から受け取った。
さりげなく、彼女の目と合わせて、とその時でした。
ガラス表面にすすまれているような目玉。
光ってるのような、透明のような。
余りにも哀しさが移っていて、自分も混乱になってしまうぐらい、
世界で一番悲しそうな茶色の目玉。
僕が彼女の言った出来事を覚えていないからですか?
僕が悪い?
え、だってそんなことが無かった!
本当に無かったよ!
きっと、人違いですよ!。
自分の中に自分の無罪を叫んだけれど、言葉にはならなかった。
ただ、泣きそうな彼女の顔を見つめて、焦って、とにかく、廊下で女を泣かせて騒いでになるより、隠していた方が…
”行こう!” と何も考えずに彼女の手を引っ張り、保健室に足速で向かった。
…
空いている窓から風が吹いて、白いドレスのような見えてしまう、角部屋のカーテン。
保健室のベッドの端っこで座って、スカートを握って下を向いたまま彼女。
そして、名前を知らず彼女の前に立っている僕。
冬になると静電気で大変なことになりそうな、肘までのサラサラすぎて薄茶色の髪。
夏の暑さで少し日焼けしている肌。
華奢で、僕の肩が届かないぐらいの身長。
いや、やっぱり、彼女と会ったこと無い。
そして、ずっと先から無言で下を向いたまま彼女は、
”淳さん…
あなたにとって「愛の裏表は無関心」の意味は何ですか?”
水を渡そうとしている僕の手を重ねながらやっと喋り出した。
僕は彼女が言ったことにビックリ。言った内容にではなく、彼女は何故、僕の下の名前を知っているのだ?
”いいえ、特に何も”と感情入らずで答えたら、
せっかく落ち着いていた彼女の表情に、もう一度悲しみの波が訪れそうだった。
”もう、分かったよ、
ごめんなさい。
君のこと何も覚えてない、もう、泣かないで!” 彼女のペースに完全負けた僕のお願い。
その正直な言葉に力を持っているなのか、彼女は顔を上げていた。
数秒間、僕の顔を見つめて、柔らかな表情で彼女はこう言った、
”…週末、また会えましょうか?”
”え?”
”忙しいですか?”
”いいえ、けど、…”
”土曜日、駅で、如何ですか”
会話の流れでのみこまれた僕はその時気づいた、
泣き跡が未だに残っている彼女の顔に、微笑みが少し見えた。
”分かった”、と言いながら、「変な奴」、頭の中で愚痴を言った。
…
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